妖怪ぬり壁

モツ煮家店主のブログ

ずっと昔、私が20代か30代のある冬の夜のことです。

出張で帰りが遅くなって水上に戻ってきたのは夜の12時頃でした。

水上は雪でした。

高速を降りて会社に向かっている途中、直線道路の遙か前方に何か大きなものが

あるのがわかりました。

夜ではあり遠目ですがかなり大きなものだというのはわかりました。

何かな?と思いながら車はそれに近づいていきます。

そしてそれとの距離が100メートルくらいになった時、

私は全身が凍り付いて思わずブレーキを踏みました。

雪が降っているし、しかも夜なのでそれが何かは確認できませんが

とにかく異様に大きいのです。

しかもそれは動いているのです。間違いなく生き物です。

ゆっさゆっさとゆっくり肩を揺らしながら歩いています。

灰色のような、黒いような色で背丈は家の天井くらいあり、胴体は車くらいあります。

ぬり壁! ・・・、思わず妖怪ぬり壁が脳裏をよぎりました。

マジかよ・・・。

得体の知れぬ恐怖に車はなかなかそれに近づけません。

しかし、この道を進まなければ会社には帰れません。

少しの間躊躇していましたが、

えーい! とばかり意を決して車のスピードを上げました。

そして、その得体の知れない何かに数十メートルまで近づいた時!

正体が判明しました。

思わずスピードをゆるめ、ゆっくりとその方向を凝視しながら追い越しました。

何と、それは人がタンスをしょって歩いていたのでした。

唐草模様の入った大きな風呂敷でタンスを包んで、それを背中にしょった構図でした。

あり得ません。

雪が降る夜中の水上に、タンスを背負って歩く人がいるなんて想像を絶しています。

ユリ・ゲラーやノストラダムスがいたってこの場面は絶対に想像もできないはずです。

だって、水上でこの時間に道路を歩くのはタヌキしかいませんから。

北の国からみたいなもんなんです。

この時間にタンスを運ばなければならない理由ってなんだったのでしょうか?

今となっては理由など別に知りたくもありませんが、

私の寿命がちぢんだ事だけは確かです。

箸にも棒にもかからない、何の役にもたたない経験をしましたというお話でした。

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