頭が上がらない先輩

モツ煮家店主のブログ

昔、工場の拡張工事をしました。

この工事の時に世の厳しさというものを思い知らされ、

また、人のありがたさというものも身にしみる出来事が

ありました。

世の厳しさの内容というのは工事の金額が直前に変わった事。

前々からお世話になっていた工事業者さんに半年以上前から

工事の内容や予算の事を打合せしました。

ところが工事開始一ヶ月前に出された正式な見積りは

予算の1.7倍の金額。今までの打合せは何だったのだろう。

親の代からの付き合いの業者さんなのでいつもその業者さんに

仕事をお願いしていました。いわゆる、なあなあの仲です。

でも、それが今回裏目に出た格好となりました。

明らかに、こちらとあちらのこの工事に対する本気度が

違っている事が分かりました。

工事開始一ヶ月前の出来事です。

県内はもちろん、県外にまで営業に出て頂いてきた仕事が

このままではこなせない状況が発生しました。

今さら、「納品できません」なんて口が裂けても言えません。

会社の信用問題です。

私の中でブロック塀が音を立てて崩れていきました。

失意の渕に立った私は先輩に相談しました。

一ヶ月で工事の段取りなど組めるわけがないのは

百も承知の上ですが、でも他に泣きつく先などありませんでした。

先輩は「少し待て」と言いました。

そして数日後、その先輩は建設業者さんを何人も連れて会社に

来てくれました。みんな先輩の同級生だと紹介されました。

統括の工務店さんから配管、設備、水道、塗装、電気、器具、

全て先輩の同級生が経営している会社のオーナーさん達です。

偶然とはいえ揃いも揃っています。

事情は先輩が話してくれていました。オーナーさん方へ工事内容を

お話しして現場を見て頂きました。

統括の工務店の社長さんが、「すでにみんな(オーナーさん方)現場を

持っているので普通の仕事として請け負うのは難しいが、

我々の時間の許す範囲で仕事をするという事を了承してもらえるなら

何とかやってみます」と話してくれました。

オーナーさんの集まりだからこそ一決できた話です。

工事が2日空いたり3日空いたり、午前中だけだったり午後だけ

だったりする日もある、とも話されました。

でも、その時の私にはこの工事を請け負って頂けるだけでも

ありがたい事でした。

しかも統括の工務店の社長さんは、「当初の予算内で収めます」

と言ってくれました。先輩から話が通っているのが分かりました。

そして工事が始まりました。

毎日は工事できない、と言われていたにもかかわらず

皆さんが毎日入れ替わり立ち替わり来て工事を進めてくれました。

お忙しいであろうオーナーさん方まで毎日顔を出してくれました。

ありがたかったです。

私に出来る事といえば、朝現場に入って頂く時とその日の仕事を

終えた時に挨拶に伺う事だけでした。

工事が終わりオーナーさん方にお礼の会にお付き合い頂くと

「こんなに気持ちよく仕事をさせてもらったのは初めてだ」と

話してくださいました。私にとっての最高の褒め言葉でした。

この時に初めて ”工事が終わったー” と肩の荷が下りた

気がしました。

その席でも先輩は、「これからも面倒見てやってくれよな」と

オーナーさん方に酒を注ぎに回ってくれました。

ふだんは無愛想で、それが故に自分の会社では従業員から

「私達が店に出ますから社長は出ないでください」

なんて言われている先輩ですが実は性根の優しい方なんですね。

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